捜索願いで捜索されたことある?僕ある。

おじいちゃんが猟師でした。

鉄砲をかついで猟犬を連れて山に入り、イノシシとか野鳥とかを撃っては食べたり売ったりしてました。

僕が小学5年生の時に亡くなったので一緒に猟に行ったことは一度も無いのですが、軽トラックの荷台に獲物が乗せられてきて、それを車庫で解体したり、皮をなめして毛皮を作ったりしてた記憶があります。

 

その影響からか僕は今でもシカやウサギは抵抗なく食べれますし(お店で食べるのは臭みがあってあんまり美味しくないです)海外出張でカエルや蜂の幼虫(高級食材)が出てもとりえず食べることはできます。

動物や山や植物が好きだったりするのも全部おじいちゃんの影響かもしれません。

 

僕の両親はどちらも仕事人間でほとんど家にいませんでしたので、僕はおじいちゃんとおばあちゃんに育てられました。

 

そして、おじいちゃんはとても厳しい教育方針を持っていました。

殴られたりした記憶は無いのですが、姿勢が悪い、食べ物を粗末に扱った、殺生をした、嘘をついた。 これらの罪には必ず罰が下されました。

 

「納戸に閉じ込めの刑」「家から閉め出しの刑」「犬小屋で一泊の刑」など田舎ではありがちな罰がメインだったんですけど、犯した罪が重いと「山に置き去りの刑」という処罰が下されます。

その名の通りなんですけど、山に強制連行され置いて行かれます。

ダントツでこの罰が怖かったです。

 

まず、軽トラに乗せられて山に連れて行かれます。

決まって夜です。

舗装なんかされていない道を、地元の猟師しか知らないような道をひたすら山の奥へと進みます。まさに獣道です。

ほど良く進むと、軽トラが森の中で止まり

 

おじいちゃん「降りろ」

 

 

恐怖。

ハッキリと覚えているのは、おじいちゃんはチラリともこちらを見ずに「降りろ」と言っていたこと。 

 

 

ここでどんなに懺悔し悔い改めても無駄。

おじいちゃん「降りろ」の一点張り。

 

そして、いやいや軽トラを降りる僕。もう、この時点でわんわん泣いてますかね。

ドアを閉めた瞬間、軽トラは発進。

 

遠ざかるテールランプ。

刹那、闇。

 

これ、夜の山に置き去りにされた人しかわかんないと思うんですけど、夜の山って本当にびっくりするくらい真っ暗なんですよ。明りが無くなった瞬間なんて1メートル先も見えないんですよ。

 

まさに一寸先は闇。

 

そんな暗闇の中を子供一人で帰ります。

 

それで、どうやって子供が夜の山から一人で帰ってくるのか?

 

 

 

パンが、道に落とされているんでよね。

 

 

食パン。

一口大にちぎった食パンが、ポツリ、ポツリと。

 

これが家までの道しるべ。ロードオブザ食パン。

 

パンを拾うと数メートル先にまたパンが。

暗闇に目を慣らし、僕はこの食パンを泣きながら拾って家に帰っていました。

 

※おじいちゃんもギリギリ僕の姿を確認できる一定の距離を保っていたと思います。

 

僕はこの罰を十数回受けているんですけど、連れて行かれるのは毎回違う山だったと思います。おじいちゃんは猟師だけに様々な山を知っていて、ある程度迷わない山道を選んでいたんだと思います。

 

ある日、僕が勝手に台所のお菓子を食べたのに「知らない」とウソをついたという理由で「山に置き去りの刑」が執行されることに。

 

いつものように軽トラで山に。

ライトが照らす木々。

無言の車内。

いつもの「降りろ」。

遠ざかるエンジン音。

慣れることの無い闇。

森の空気。

わずかに聞こえる虫の声。

自分の足音と息使いだけが響く。

 

 

不思議なことに何度もこの刑を受けていると恐怖心はぬぐえなくても(必ずパンをたどれば帰れる)という確信があって(泣きじゃくるよりもパンを、とにかくパンを)と少し前向きになれるんですよね。

 

 

走って、拾って、また走って。

 

でも、その日は途中から無いんですよ。パンが。

 

(あれ?今日はパンの間隔長いな)なんて思っいながら次のパンを探しても、どこにも見当たらないんですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変わりに見えたのは光る目。

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シカ。

 

 

 

シカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 

 

食ってんですよ。シカが、パンを。道しるべを。群れで。

 

 

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僕の姿を見て、驚いて逃げるシカの群れ。それ以上に驚き立ちすくむ僕。

 

気がつけばシカの姿はパンと共に消えていました。

 

 

迷子。当然のように迷子。

「おじーーーーちゃーーーーん!パン無いよ!!パン無いよーーーーーー!!」

泣きながら何度も何度も叫んだ記憶があります。

 

探しても探してもパンのかけらは見つからず、叫んでも叫んでも声は闇に溶けていきます。

 

迷子。否、遭難。

 

きっと、混乱して、やみくもに走ったんだと思います。

何度も転び、傷を作りながら。

 

一方その頃、実家では大騒ぎ。

と思いきや、おじいちゃん、孫を見失ったことを誰にも言えず。

「もう寝ている」とかなんかウソを言って何とか家族をだまし、夜中、こっそり家を抜けだし僕を一晩中探し回ったらしいんですけど、結局朝になっちゃったらしいです。

 

それで朝になって僕がいないことがばれて、大騒ぎ。おじいちゃん観念してカミングアウト。

 

出される捜索願い。

クマの存在こそは確認されない山でしたが、カモシカやイノシシなど大きな動物はいます。

地元の猟友会による山狩りはライフルや散弾銃を装備して行われました。

 

それで、肝心の僕の記憶ですが、夜の記憶が無いんですよね。

気が付けば早朝の山を歩いていて、それで、遠くに犬の鳴き声が聞こえて。

その鳴き声が大きくなったと思ったら矢のようなスピードでビーグル犬が僕にアタックしてきたことを覚えています。

 

その犬が先導してくれて僕は帰れました。

犬、こっちをチラチラ振り返りながら先導してて、途中からそれがめっちゃかわいくて、犬がこっちを見ていないスキに木の陰に隠れたりして遊びながら帰ったのを覚えています。

 

 

この事件の余波は大きいもので。

おじいちゃんには警察と猟友会に怒られて「山に置き去りの刑禁止令」が発令されました。

僕を助けてくれたビーグル犬は猟犬を引退し子供を産み、それを一匹もらいました。

おじいちゃんが猟でシカを仕留めてくる度に(あの時のシカかな)って思いましたし、おじいちゃんはおじいちゃんで「お前を迷子にしたシカを仕留めたぞ」なんて言ってたりしてました。

僕は31歳のオッサンですが未だに真っ暗が少し怖いです。トラウマ。 

 

この話のオチは数年後、お盆の墓参りの時におじいちゃんの墓の前で訪れます。

 

 

兄貴「あの時さ、お前が山に置き去りにされた原因になった台所のお菓子。あれ、黙って食ったの俺なんだよね。ブハハハハハハハッwwwwwwwwwwwww」

僕の兄貴、性格が千原せいじっぽいんですけどね。

とにかく僕と兄貴の間に決して埋まらない溝ができましたとさ。

 

 

 

めでたしめでたし。