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宗教上の理由で恋人と別れたことある?僕ある。

女性からの「だいじな話があるの」

 

なんなんですかね、あれ。

やめほしいですよね。

凶器ですよね。暴力ですよね。恐怖しかないですよね。

「だいじな話」って「その後に大きな決断を迫られる」パターンが多いんですよね。

だから怖いんですよね。たぶん。

 

 

 あと長文メール。

 

男性は例外なく女性からの長文が怖いです。 

LINEの普及により文字どころかスタンプで感情表現を行うことも増えたじゃないですか。

Twitterにもなれちゃって、たがだか140文字を「長文」と言ったり。

もうコミュニケーションにおいて長文に対する免疫が弱まっているんでしょうね。

例えば仕事のメール。

普段「はーい!了解です!

っていうフランクな感じの得意先の女性から

「拝見 御社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。さてこの度は…」

から始まる長文メールなんか来ると恐怖しかないですよね。

とにかく我々は長文が怖いのです。たとえそれがラブレターだとしても。

 

脱線しましたが女性からの「だいじな話があるの」

怖いです。

 

僕もこれまでいくつもの「だいじな話があるの」を乗り越えて来ました。

その中で最も思い出深いのが

 

彼女「だいじな話があるの。あのね、うちのお母さんがね、宗教上の理由でこれ以上あなたとは付き合ってはいけないと言っているの」

 

あるんですね。

豚肉が食えないとか、肌を露出してはいけないとか以外で「宗教上の理由」を使うところが。

 

事情を聴けば

「うちの母は『世界のバランスを均一に保つ』宗教団体に入れ込んでおり、私とあなたがこれ以上付き合うのは世界のバランスを守る上で好ましくないらしいのです」

とのこと。

 

ここで念のため言っておきたいのは僕の彼女はいわゆる普通の女の子だったということです。

確か僕より7歳年上でした。勤務先は名前を聞けば誰もが知っている外資系大手製薬会社。東京の広尾で実家暮らし。お父さんは双日だか伊藤忠だかの商社マンで日本には年に2~3回に帰ってくる程度。

いわゆる「超」が付くほどのお金持ちの娘さん。

 

 

問題はお母様です。

何不自由無い暮らしなのに色々とアレな「宗教団体」に入れ込んでいる様子。

 

これは余談ですが、数年前、親戚のおばさんが鬱になったんですよ。原因が「夫は立派に公務員を定年退職した。退職金も高額だ。老後の蓄えも充分。借金も無い。趣味もたくさんあって楽しい。二人の子供たちは立派に独立、結婚した。孫超かわいい。あぁ、なんて満ち足りた老後だ。何も心配事が無い人生だ。物足りない。鬱だ」って感じでした。

きっと彼女のお母さんもこのパターンで宗教に入れ込んでしまったと思うんです。

 

幸せは、時に人を弱くするんですね。

よく言うじゃないですか「幸せすぎて、怖い」って。

その人にとっては本当に恐怖なんだと思います。

時には神にもすがるほどの。

 

それで彼女が「お母さんが付き合いを続けたいのであれば一度会いに来いって言ってるんですけど…」と。

 

当然拒否。

ノールック拒否。

 

ただでさえ難易度が高い「彼女の実家」にレアなオプション「宗教団体」が付くなんて。

 

でも彼女、家に帰る度に「おい、彼氏はいつ連れて来るんだ。おい、早く連れて来い!おいっ!連れて来い!連れて来い!さっさと連れてこいっ!しばくぞっ!」と引越しおばさんレベルのプレッシャーを与えられている様子。

過度なストレスからか肌は荒れ、実家を出て一人暮らしするだの言い始めたので僕も一肌脱ぐことに。

 

彼女に「じゃあ今週末、行くよ。家に」と言った時の彼女の顔、忘れられません。

今思えば、かなりの決断が必要だったと思うんです。

付き合っている彼に「私の母が色々とアレ」という告白。

もっと早く応えてあげればよかったな、と。

 

待ち合わせの広尾駅から自宅までの道中、何度も何度も「引かないでね引かないでね」と念押しされ「ごめんねごめんね」と謝られ「来てくれてありがとうありがとう」と感謝される僕。忙しい。

 

広尾のご実家。

防犯カメラ付きの豪邸。セコムしてます。

駐車場には多少の悪さをしないと買えないであろう車がズラリ。

 

やけに分厚い玄関扉を開けるとそこは

 

異世界。

 

キテレツ。

 

すごい電波を発していました。

 

巨大な球体が。

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※もちろん画像はイメージですがかなり現実に近いです

 

豪邸特有の広い玄関ホールいっぱいに謎の球体が鎮座されておりました。

 

3メートル以上は間違いなくありました。

 

あれだけ「多少のことでは引かないよベイビー」と彼女に答えていた僕、ドン引き。

 

だってサイズ、デザイン、存在感。その全てが珍奇で、規格外なんですよ。

 

ちょっとした神棚とか祭壇とかは予想していましたが完全に想定の範囲外。

 

そして、お母様登場。

 意外と、普通の恰好をしておりました。

  

僕「どうもはじめまして…」 

 お母さん「私のことは『広尾のマザー』と呼びなさい…」

 

 

僕「…………」 

彼女(ごめん、ほんとごめん)

 

僕「…広尾の……マザー…」

マザー「はいなんでしょう」

僕「…どのようなご用件で僕は呼ばれたのでしょうか」

マザー「バランスが、崩れるのです」

僕「…バランスですか?」

マザー「今、あなたが我が家の敷地に入ったことで、すでにバランスが崩れています」

 

 

この後、広尾のマザーと僕と彼女の間には永遠とも感じる長い時間、不毛の会話が続きます。

 

若い男女の別れ話って、たいがい泥沼化して長引くじゃないですか。

円満に別れようとして、理論で無駄に武装する感じ、あるじゃないですか?

特に男性がハッキリ物事を言えないパターン。

「お前のことは嫌いになったわけじゃないんだけど別れよう」

「これ以上お前を傷つけたくないから別れよう」

「お互いのためにこのままでは良くないから別れよう」

みたいな。あんな感じです。

 

それで、要約すると

マザー「あのね、神棚。めっちゃ必要。神棚買って毎日拝めばOK。OKどころか、かなり幸せになるわね。買いなさい神棚。15万。」

とのこと。

 

 

込み上げてきた感情は、怒り。

 

 

神棚を売りつけようとすることに対する怒りではない。

だってマザーはお金には困っていない。僕のことだまそうとしていない。

信じた神の教えに沿って僕に神棚が必要だと本気で考えている。

僕のことを、想っている。

根底にある動機は『高い神棚を売りつけてやろう』という『悪意』ではなく『娘のためにこの男によくなってもらいたい』という『善意』なんですよね。

 

今考えると、僕の怒りはきっと、お母さんをこんなになるまで放置しておいた彼女に向けられていたのかもしれません。

 

熱くなっちゃいましたよね。

 

 僕「もういいっす。買う買う。買うって。買えばいいんでしょ!神棚!!15万!!」

マザー「?15万??15万7500円よ?」

僕「はああああ?!値上げしてんじゃん!」

マザー「15万は税抜きだよ!」

僕「………っ!!」

 

無くならないですよね。戦争。

こうやって僕がブログを読んでいるこの間にも海の向こうの空は赤く染まっています。

悲しい赤色に。

 知っていましたか?この世界で起こってきた戦争の原因はほとんどが宗教紛争らしいですね。

今でこそ領土や資源の確保のための戦争もありますが、宗教戦争の方が圧倒的に多くの血が流れています。

僕たち日本人の多くは無宗教で、ほとんどの人が神に依存しません。

しかし、信じる神が違うだけで人は人を殺し、自らの命を絶ち、国と国が争います。

宗教戦争をする人たちの気持ちがほんのこれっぽっち、理解できた瞬間でした。

 

でも、東京で独り暮らしをしているフリーターの21歳にはお金が無かったんです。

あの日の僕の財布には1000円札が数枚入っていただけだったので一度外に出て、銀行口座から全財産の6万円を引き出し、三井住友VISAカードのキャッシング枠で10万円をお借りし、16万円用意しました。

 

 

 

そして、逃げましたよね。全力で。

 

 

 

「買う」って言った瞬間はわりと本気で買う気マンマンだったんですけどね。

ATMから出てきたばかりの16人の諭吉たちはほんのり温かくて、僕に「逃げろ。振り向くな」と言っていた気がしたんです。

 

あと、一度外に出たら、またあの球体が見守る家に戻るのが急に怖くなったんですよね。

 

 

彼女のことは失いました。

あの日、彼女は僕の家に来て涙を流しながら謝り「お金は私が出す」やら言ってたんですけどね。そんな問題じゃないんですよね。

 

「お互いのためにこのままでは良くないから別れよう」どこかで聞いたようなセリフだったけど、あの時の二人にはすごくフィットしている気がしました。

 

今でも彼女が何度も何度も僕に

「ごめんね、こんな家庭で育ってごめんね」

涙を流しながら謝る姿がまぶたに焼き付いています。

 

彼女は悪くない。「こんな家庭」と蔑む必要はこれっぽっちも無い。

彼女のお母さんも悪くない。

神様だって悪くない。

悪者は、いない。

誰も悪くない代わりに、誰も良くもない。

彼女のお母さんは信じた宗教があり、娘のことが心配。

彼女はそんなお母さんが心配。

僕はそんな彼女が心配だっただけ。

 

それだけ。

 

でも、よかったんですよ。これで。

 

僕、この頃21歳で彼女は28歳くらいだったんですけどね。

マザーが「世界のバランスが崩れる」なんて言い出すずっと前から

何かといえばゼクシイを毎号買ってきたり、友達の子供の写真をやたら見せてくる彼女とのバランスはとっくの昔に崩れていたのですから。

 

21歳。まだ結婚と言うリングには上がれなかったんですよね。

 

月日は流れ、僕は31歳。独身。もう4年、彼女がいません。

 

ゼクシイを買ってくるような女性と付き合いたいこの頃です。

 

あと、宗教って、非課税らしいですね。返せよ7500円。払ってないけど。

 

 

 おしまい。