電話なんかやめてさ、六本木で会おうよ

ふと、イヤホンから流れてきたカルアミルクという曲で岡村靖幸は「あともう一回、あなたから、またもう一回の電話で僕らは出直せる」と歌いました。

 

そうです。岡村ちゃんの言うとおりです。

僕たちにはたった一本の電話でやり直せる人がいるのではないでしょうか。

 

かつてあれほどまでに様々な価値観と膨大な時間を共有し、時には衝突し、時にはまるで冗談を言い合うように永遠を誓った人。わずかなすれ違いで別々の道を歩くことを決めた人。僕がほんの少しの勇気と覚悟を胸に、ダイヤルを押して発信ボタンを押せば一度は離れた関係を、まるで何事もなかったように修復できる人。

 

そう考えて携帯電話を取り出し電話帳を見返してみましたが、いませんでした。

何度も何度も「あ」から「わ」まで見返しましたが、やっぱりいませんでした。

僕の元彼女たちは順調に結婚していきました。何なら僕と付き合って別れると、次に付き合う人と高確率でスピード結婚できるというよく分からない流れができました。僕がちょっとした恋愛のパワースポットみたいな感じになってしまいました。

こうなったら「僕と付き合って別れると次に付き合う人と高確率で結婚できるよ。だから付き合おう」という口説き文句で彼女を作ろうかなと思います。

 

 

(?)

 

 

いきなり脱線しましたが、本題は岡村ちゃんの歌詞である「電話」です。

別に岡村ちゃんじゃなくてもいいんですけど、かつてJ-POPにおいて好意を伝える手段は「電話」でした。

小林明子(徳永英明のほうがメジャーですかね)は会いたい切ない想いを「ダイヤル回して手を止めた」と歌いました。ミスチルも「毎晩君が眠りにつく頃、あいも変わらず電話かけてやる」と歌いました。宇多田ヒカルもデビュー作において「7回目のベルで受話器を取った君」と歌っています。それがいつしかメールという文字による伝達になり、今ではLINEのようなアプリが主流です。文字どころかスタンプ1つで感情を伝えることも増えてきています。

それらのアプリの多くは無料で、この手軽さは非常に重宝します。結果、通話する機会が劇的に減りました。

ちょっと調べてみると、LINEなどの台頭で音声通話の時間は右肩下がりに減少しているそうです。日経の2013年発表のデータではNTTドコモの音声通話による収入はこの10年で4分の1までに減ったそうです。

 

しかし、そんな時代だからこそ電話が活きてくることを先日、ある出来事で実感しました。 

 

平日の夜。23:30頃でした。

残業を終えて帰宅し、シャワーから出ると携帯電話のお知らせランプが青色に点滅しているのです。

LINEやTwitterなどのSNSの通知は緑色です。

(なんだろう?)と思い画面を見ると「着信あり 3件」の表示。

 

 

(ななななっ!何事だ!?)

 

 

一瞬パニックになりました。LINEやTwitterの通知画面を見すぎてしまったため、数年前までよく見かけた「着信あり」の表示が非日常になってしまっていたのです。数年前なら(誰からだろ?)だったと思いますが間違いなくあの時僕は(何事だ!?)と感じました。

 

しかも着信の相手は女友達(25歳独身)です 。

彼女とはLINEでのやりとりがメインです。通話した記憶がこれまでになかったことや23:30という時間がより一層「着信あり 3件」を非日常化します。

 

ドキドキしながら折り返し電話をすると、彼女は2回目のコールで電話にでました。

 

そして、少し息を切らしたような声でこう言いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴキブリが出て、助けてもらおうと思って電話した」

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラクル。

 

ミラクルです。

こんなことがあっていいのでしょうか。

僕は一瞬で彼女を扶養家族として迎え入れたくなりました。

そうです。こんなにもあっけない出来事で人は恋に落ちるのです。

 

ちなみに電話してきた女友達は実家で姉と父の3人暮らしです。

夜、部屋でくつろいでいたらゴキブリがカサカサと壁を這っていくのを見つけてしまい、お父さんはまだ仕事で帰宅しておらず姉と二人でパニックになり、思わず電話したのが僕だったとのこと。 

ゴキブリは数十分後に帰宅したお父さんが退治してくれたとのことですが、もし、僕が駆けつけてゴキブリを退治していたら、彼女(もしくはお姉さん)との関係がその夜から何か変わったかもしれません。 

 

 この一連の流れには偶然にして様々な抑えるべきポイントがあります。

 

普段なら絶対にLINEで連絡が来る相手からの突然の【着信あり】の文字。

文字でのやりとりがメインである人との【音声通話】で伝わる息使い。

ゴキブリでパニックになったという【か弱さ】

電話に出ていれば部屋に行っていたかもしれないという【憶測】

そしたら部屋どころか部屋着やスッピンなど普段見れない所まで見れたであろう【下心】

そして何よりも、パニック状態で助けを求めた相手が僕であったということ。

僕は、僕の部屋にいながら、しかも本来であれば一番落ち着くはずの時間帯で【非日常】な出来事にドキドキしたのです。

 

 

これで、今夜、みなさんがすることは決まったはずです。

 

 

ゴキブリが出たとか出ないとかではなくとりあえず「ゴキブリが出た」と電話しましょう。

 

そして、その対象は気になる男友達でなくともいいと思います。

遠距離恋愛中の彼、職場の上司や同僚、兄弟やお父さんでもいいのかもしれません。

この「パニックになった時に無意識に頼ったのはあなたでした戦法」は全ての男性に対して驚くほど有効です。きっと精神的な距離を劇的に縮めてくれることでしょう。

単純ですが、やはり男は頼られたいのです。

 

気になるあの人との距離を急接近させる逆転ホームランとなるのは、かわいいウサギやクマのスタンプではなく無機質な【着信あり】の文字やすっかりこだわりを忘れて初期設定のままの【着信音1】なのかもしれません。 

 

先日読んだビジネス書に【あくまでデジタルはアナログを補完するツールのひとつでしかない】ということが書いてありました。その通りです。

僕たちの身の回りのツールはデジタルによって進化していっても、結局のところ人対人の付き合いはどこまで行ってもアナログなのです。

 

冒頭で述べた岡村ちゃんは「電話なんかやめてさ、六本木で会おうよ、今すぐおいでよ。仲直りしたいんだもう一度、カルアミルクで」と歌いました。岡村ちゃんの言うとおりです。

 

日常から、少しだけデジタルを排除しましょう。

 

LINEをやめて、電話してみましょう。かける時間を気にしたり、呼び出し音を数えたりしましょう。あと、電話を切るときに(はーい、じゃあねー、はーい、おやすみー、はーい、は、はーい………)みたいに少しダサい感じになりましょう。切った後の「プー、プー」という音で余韻を感じたりしましょう。

待ち合わせでスマホの画面を凝視するのは止めて「遅れてごめん」と言いながら駆け寄る姿を見つけましょう。

一度や二度くらい食べ物をカメラで撮影しなくても大丈夫なはずです。

パズルゲームは1人でやりましょう。

 

気にするべきは、遠くにいる人からのスタンプや【いいね!】の承認ではなく、目の前にいる人の言葉です。

 

 

今回も彼女いない暦4年半の僕がお伝えしました。

ありがとうございました。

 

おしまい