僕らはみんな病んでいる。病んでいるけど生きるんだ

f:id:ui0723:20190330032455j:plain

もう15年くらい前なのですが、キッチンの吊り戸棚のトビラに頭を強打して、後頭部にマンガのようなたんこぶができました。

医者には行かず、数週間で炎症は治まったのですが、今度は別の所が腫れていることに気付きました。ぶつけていない所です。

それがいつまでたっても収まらないので皮膚科に行くと、お医者さんが

 

「炎症が起きているのは間違いないけど、よくわからん」と言うのです。

 

紹介状で大学病院に行き検査した結果、病名は「頭部乳頭性皮膚炎」でした。

奇病です。

だって病名に乳首が入っています。奇病にまちがいありません。

先生は「これ、ハッキリとした原因は分かってないんですよ。恐らくたんこぶ作ったときにバイキン入ったんでしょうね。個人差ありますが、たぶんずっとこのままです」とのこと。

先生の言った「たぶん」は現実のものとなり、あれから15年経過しましたが、僕の頭皮の一部はあいかわらず少し盛り上がっています。

痛くもかゆくもないし、変化もしない。

不便なことは美容室ではじめましての人に「ここ、触ると少し盛り上がっているんですけど、痛くもかゆくもないので大丈夫です」と説明することです。でも、もう10年以上、同じ美容室にお世話になっているのでストレスフリー。

 

という話を友達6人と食事をしている時に話したら

 

「頭にwww乳首wwwwwww」

 

と、ひとしきり笑われた後に、1人が

 

「俺、実は『ニセ痛風』なんだよね」と言うのです。

 

申し訳ないのですが、笑ってしまいました。「ニセ?なんだそれwwwww」と。

偽痛風とは正式名称で(調べたらギツウフウと呼ぶそうです)、症状は痛風そっくりですが、原因が異なる病気です。でも、彼も日常生活に支障は無く、たまに足首が痛い程度、とのこと。

 

すると、また別の友人が「俺もあるよ。みんなに言ってなかった病気。『頭内爆発音症候群』」と言うのです。

寝る前に爆発音が聞こえるらしいのです。

「原因はよく分かってないらしいんだけどね、寝るときさ、本当に眠りに落ちる直前にさ、チュドーーーン!ドカン!ボッカーーン!ってさ、聞こえるの」の説明で「寝れないねwwそれは、寝れないねwwwww」と混みあがる笑いを抑えることができませんでした。友人は年に数回とのことでしたが、きっと苦しんでいる方もいらっしゃる中、不謹慎なのですが、笑ってしまいました。

 

3人目の友人が「私は、身体は特にないな。でも、風船が死ぬほど怖い」と言うのです。

「風船がね、膨らんでいる状態がめちゃくちゃ怖い。吐きそうになる。バラエティ番組で巨大な風船を膨らますゲームみたいなやつが一番最悪。恐怖なんてもんじゃない。絶対に見れない。リモコン見つからないときは部屋から逃げる。風船恐怖症っていうんだって」

これは何となく気持ち分からんでもないです。

 

そういえば僕も、病名があるのか無いのか分かりませんが脳内に「巨大な物」と「小さい物」を同時に思い浮かべるとめちゃくちゃ怖いです。それぞれ単品では何とも思わないのですが、セットになると怖いのです。

例えば「アリとゾウ」めちゃくちゃ怖い。

「ダムと子犬」無理無理無理。

 

すると、また別の友人が「キメラ料理が怖い」と言い出すではありませんか。

「親子丼はわかるじゃん、鶏と卵だもん。でも、鳥の手羽に牛や豚の肉を詰め込んだ手羽餃子とか。イワシの腹に明太子入れた料理とか、違う生き物の部位を掛け合わせた料理が怖い。牛丼に生卵も無理。食えないし、見るとゾッとする。神もを恐れぬ所業だよ」

 

そんな話をしていたら、その場にはいなかったのですが、大阪の友人は「群発頭痛」を持っています。何年かに一度、突発的に頭痛に襲われるのです。こんなに痛いなら死んだ方がましと言うくらい痛いらしく「自殺頭痛」の異名を持ち、心筋梗塞、尿管結石と並ぶ三大痛のひとつと言われています。

「長い単語恐怖症」の人もいるそうです。長い文章、ではなく、長い単語。そして「長い単語恐怖症」の英語の病名が「Hippopotomonstrosesquipedaliophobia」という単語なのです。病名がめちゃくちゃ長い単語って、もう悪ふざけとしか思えません。

昨年話題になった小説「夫のちんぽが入らない」も、夫のちんぽだけが入らないという、病気ではありませんが問題を抱えた夫婦の「実話」です。

 

出てくる出てくる、色んな病気や恐怖症。

人に言えないような、言ってこなかったような、言う機会がなかったような問題が。

そして、そのほとんどがはじめましての病名です。全員、命には関わらない程度の、慢性的な病気を心身に抱えていました。

 

みんながんばってるんだな、なんてことない顔してさ。

と、僕たちはその時ばかりは互いの呼び名を「乳首」や「風船」や「爆発」に変えて、それぞれが抱える病気の話しで1時間近く盛り上がりました。

 

キメラ「俺、昔事故して、ここにボルト入ってる」

偽痛風「俺なんかここにシャーペンの芯が2本も刺さったままだぞ」

爆発「重度の痔」

途中からマウントの取り合いです。

 

しかし、1人会話に混ざってこない友人がいるのです。最年少のヨウジくんです。

 

 「なんも無いって。俺、健康ですから。マジで」と言うヨウジ君。

 

乳首「絶対に何かあるだろ」

爆発「一人だけ20代だからって、無いことは無いだろ」

キメラ「花粉症とか、高所恐怖症でもいいぞ」

 

 

と、酒の入っていた僕たちは彼に迫ります。

何度も何度も何度も迫ります。

 

「分かりましたよ!言いますから!絶対に誰にも言うなよ!」

ようやく根負けした彼が、つぶやくように言いました。

 

 

 

 

 

 

「ED」

 

 

 

 

 

 

 

「心因性のEDで、もう、一年以上、勃ってない」

 

 

 

 

 

 

乳首も、爆発も、キメラも、みんなでEDを抱きしめました。

ごめんな、ごめんな、と。

ヨウジくんには「いつか、立つよ」という想いを込め「クララ」の呼び名を与え、その日は朝まで飲みました。

 

 

僕らはみんな、病んでいる。病んでいるけど、生きるんだ。

 

ある人は、内緒の病気を抱えながら。

またある人は、どこにもカテゴライズされないような、名もなき恐怖症を抱えながら。

100%健康な心身なんてもう手に入らないかもしれないけど、それが僕たちの日常。

色んなものを引きずり回しながら、明日も各自が持つ精一杯の健康で、楽しみましょう。

 

ありがとうございました

おしまい

 

【お知らせ】

喫茶店、やってます

朝日新聞「A-port」 ウイのオンラインサロン

 https://a-port.asahi.com/salon/cream-soda/

 

書籍が発売されました。重版も決定。ありがとうございました。