嫌いな食べ物がないわけじゃないんだけど

「好きな食べ物・嫌いな食べ物」というテーマで話をする機会、人生で何回あるのでしょうか。100回や200回とかで全然足りない気がしませんか。

 

デート、友達との食事、仕事や趣味の人間関係や美容室に至るまで。

僕らは話題に困ったとき、多くの場合まずは天気の話をします。しかし、せいぜい3分くらいで話は尽き、その次に出身地の話、その次くらいに「好きな食べ物・嫌いな食べ物」の話をしているような気がします。

仕事や家族構成や恋人の有無などパーソナルな部分に触れにくくなった今、気軽に出せる話題が少なくなってしまいました。そんな中でも話題に出しやすいのが食べ物の話なのかもしれません。


好きな食べ物はたくさんあるので困りません。

僕はカレーと蕎麦が大好きです。他にもハムカツ、担々麺、固焼きそば、カキフライ、青椒肉絲バインミー、明太のり弁など次々に出てきますので、回答に困ることはまずありません。

実際、僕も会話に困っときは好きな食べ物を聞き、さらにそこから「好きなおにぎりの具、好きなおでん、好きな寿司ネタ」と話題を派生させていけば20~30分は話題に困ることはありません。

 

困るのは「嫌いな食べ物」です。

嫌いな食べ物を聞かれたとき、僕はいつも「ないです」というこれ以上話が広がらない返答をしてしまうのです。

実際、アレルギーもないし、味が苦手で食べられない料理はないと思っています。

しかし、本当はあるのです。

嫌いな「料理」です。しっかりとした、料理。

だいたいの人は好きな食べ物を問われればハンバーグや寿司や唐揚げなど料理名を挙げ、嫌いな料理を聞かれるとパクチーやセロリやレバーなど食材名で答えることが多いのですが、僕は嫌いな料理があるのです。

 

それは「煮こごり」です。

「煮こごり」と聞いてどれくらいの人が正確にビジュアルを思い浮かべることができるのか分かりませんが、「ゼラチン質の多い肉や魚の煮汁が冷えてゼリー状に固まる性質を利用して、一緒に煮込んだ食材ごと冷やし固め、直方体などに切りそろえた料理」のことです。

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こちらが煮こごり

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イラストだとこう。


食べようと思えば食べられるのですが、煮こごりにはどうも納得がいかないことが多すぎるのです。

まず、煮こごりは完成までに加熱したり型に入れて冷やし固めたりと手間が多いのです。自分で作るわけではないので別に問題ないのですが、かけた時間と手間の割にその食材達が劇的においしくなっているかと問われれば首を横に振らざるを得ません。

具材を切って煮込むだけの肉じゃがやカレーと比べると圧倒的なコスパの悪さが気になります。わざわざ煮こごりにする理由が見当たらないのです。

そして、「煮こごりにした方が圧倒的においしくなるよね!」という食材も皆無です。 

さらに、煮こごりは冷たい状態で食べなければいけないという縛りが発生します。温めるとゼラチン質が溶けてしまうからです。あまりにも不自由ですし、加熱した肉や魚はできれば熱々で食べたい。

プルプルとした食感、まるでレゴブロックのように切りそろえられた見た目も不自然です。

まだあります。煮こごりを名物にしているお店や、煮こごりが名物になっている県がなく、家庭料理としても定番とは言い難い存在です。聞いたことありますか? 「お母さんの料理で一番おいしいのは煮こごりです!」って。

つまり、手間はずいぶんかかるけど推せるほどの料理ではないことを意味しているのです。

たまたま発見された「ゼラチン質は固まる」という性質を確認し続けるためだけに存在しているとしか思えないのです。

ご飯のおかずとしては力不足、酒のあてにしても頼りない。客単価の高い店で先出しとして出てくる程度。

そんな煮こごりに対して僕はいつまでも納得できないままいるのです。

「明日、またここに来てください。本物の煮こごりってやつを食べさせてやりますよ」と言われれば喜んで訪問したい。きっと、僕は本当の煮こごりを知らない。


煮こごりについて話し過ぎました。

肝心なのことは僕が「嫌いな食べ物ありますか」の質問に煮こごりの名前を出して、なぜ嫌いなのかを分かりやすく説明をしたところで、めんどくさい奴と思われて終わりなのは火を見るよりも明らかということです。

「煮こごりの繊細な味が分からないなんて」と言われればぐうの音も出ず、舌が貧乏な自覚もあります。きっとしっかり調べれば煮こごりを名物をしている地域やお店もあるのでしょう。

しかし、めんどうな奴だと思われないように、コミュニケーションを円滑にするために小さな嘘を重ねることに本当は毎回なんだかなと思っているのです。

 

余談ですが、今回この話を書くにあたり、数年ぶりに煮こごりを食べてみようと思いました。

ある日突然、ビールやパクチーやセロリのおいしさを「理解」できたように、数年ぶりに食べたら煮こごりのことを「理解」できるかもしれません。

しかし、近所の和食店を調べて回ってみたのですが、探しても探しても煮こごりを出す店はありませんでした。

そればかりか、ある店で「煮こごりはないけど、温めていない豚の角煮ならあります。これ食べてみますか?」と提案されます。

違う、そうじゃない。

煮こごりのことがまた少し嫌いになったのでした。

 

なんか、ひさしぶりに更新したらずいぶんとブログらしいブログが書けた気がします。

 

以上

ありがとうございました。

おしまい

 

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下記にて『まえがき』公開中。

ui0723.hatenablog.com

 

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